読んで面白い心理カウンセリング事例の本

目次

心理療法が成功するとはどういうことか

人物が会話しているイラスト

 

 

ねずみ小僧jirokichi
ねずみ小僧jirokichi
心理療法って結局は話を聞いてもらうだけだろう?
本当にそんなんで良くなるのかな?

今回はプロの技を感じさせるエピソードを
書籍からご紹介だにゃ!
ビアーザキャット
ビアーザキャット

 

 

 

 

ケースその1 ~青年~

ケース概要

ある自己愛的な青年は

誇大的自己像にもとづいて就職し

上司といさかいをおこし

他責的、被害的になって自分から退職し

非生産的にひきこもる

というパタンを繰り返していた。

 

……私の介入は

彼のこころにしみとおることがなく

また同じことが繰り返された。

……そのような膠着した事態の周辺で

治療は停滞していた。

 

彼がまた職場をやめて

ひきこもり始めた頃のあるセッションで

私は彼に強烈な無力感が高まっていた。

 

 

治療の転機

4つの折り紙の一つだけが風船で上に

…私はつくづくうんざりし

何も言う気も起きないのだった。

…いつの間にか私は面接のメモに

落書きを始めていた。

私はひとつの単純な図形を

無心に何度も擦っていた。

ふと

私はそれが船の形に似ていることに

気がついた。

私が海辺の中学校の生徒だった頃

毎年「カッター訓練」と言う名の

4人乗りボートの訓練があった。

私はそれがとても苦痛だった。

不器用で

どうしても他の3人と

ペースを合わせることが

できなかったからである。

私は

その時の喉がカラカラになるような

焦りをまざまざと思い出していた。

その瞬間

私は

彼の傲慢さの背後にある焦り

無力感、絶望感を実感できた気がした。

彼も周りに

どうしようもなくペースを合わせることが

できなかったのである。

彼の傲慢さに覆い隠されていた

無念さに私は思いを巡らせていた。

この後から

治療状況は

より生産的なものになっていった。

 

岩崎学術出版 藤山直樹著「精神分析という営み」より

 

ケースその2 ~女性~

ケース概要

彼女と私の間で

何か歴史が積み重なって

何かが生まれるようなことが

起きることなどない

と言う絶望感が

私にとって彼女のセッションの

時間のある種の背景体験として

居座るようになった。

 

彼女との間が深まらないことに

意識的になっていた私は

彼女が毎回トイレに行くことを

彼女がセッションで

私との間に起きた何かを

積み上げることによって

私が彼女にとって重要な

存在になることを恐れており

そのために

彼女と私の間に生まれたものを

流してしまう必要があるのだ

と理解した。

私はその理解に沿って解釈を与えてみたが

何の手応えもなかった。

 

 

 

治療の転換

 

この頃印象的な出来事があった。

オフィスを移って

4ヶ月ほどしたある夏の日

激しい夕立の中を彼女がやってきた。

彼女は靴をびしょびしょに

濡らして玄関を入ってきて

ずぶ濡れになった傘を傘立てに立てた。

玄関で私は全身濡れている

彼女のためにタオルを貸し

「大丈夫ですか」

と声をかけたりしていた。

しかし

彼女はそれなりに気遣いながら同時に

私には濡れた傘がどうしても気になり

これからびしょびしょの足が入る

スリッパのことも気にかかって

幾分苛立っていた。

そしてその後

彼女を面接室に招きいれながら私は

自分が一体何を

苛立っているのだろう

と不思議に思った。

彼女の濡れた傘から滴る雨水が

傘立てにとどまったとしても

何か問題があるのだろうか。

 

その時私は

直感的に悟った。

以前の共有オフィスで私が

彼女がトイレに行くことについて触れた

私の解釈が間違っていた。

 

彼女は私とのことをどこかに

流そうとしたのではなく

彼女の苦しみが

私とのセッションで

全く処理されていないことを

伝えようとして

それを私の中に流し込もうとしたのだ。

 

彼女のトイレの使用が

私との体験を流すためのものではなく

彼女の苦しみや哀れを

私の中に投げ込む

具体的なコミニケーションである

と言う理解が私に生まれたことは

この治療における大きな展開になった。

その後から

私と彼女の間は変化し始めた。

 

岩崎学術出版 藤山直樹著「精神分析という営み」より

 

ケースその3 ~子供のおねしょ~

女の子のおねしょ

 

 

二度目の時だったと思うけど

子供に自分の絵を描かせた。

そしたら自分が湖の側にいる絵を描く。

そして3羽の白鳥がいて

真ん中の白鳥は半分しか書いていない。

あとの2羽はちゃんと書いてある。

きれいな湖もあって。

 

ハァと思ってみて

その次に

お母さんを書いてって言ったら

それはそれは怖いお母さんを書いた。

紙いっぱいにすごい顔に書いた。

それで僕は

お母さんちょっといらっしゃい

と言って呼んで

お母さん

あなたはこんな風に見えているんですよ

と言いました。

そしたらびっくりして

そんなこととは思わなかった

というわけです。

 

真ん中の白鳥の体が見えない。

その白鳥が長女で

結局

長女に対するお母さんの態度

というのが影響しているなと思った。

そういう話をしたら

そのお母さんは素直な人で

その話をした後すぐに

悪かったと言って子どもを抱きました。

お互いに泣きあって

抱き合って

それで終わり

その次からピタリッと

おねしょをしなくなりました。

 

春秋者 近藤章久著 「セラピストがいかに生きるか」より

 

ケースその4 ~少女~

心理カウンセリングのイラスト

彼女の進路の決定や

クラブ活動の選択などに対しては

父がほぼ完璧に

彼女の希望を圧殺したが

そうした時の

ほとんど話し合いにならない雰囲気を

母が少しでも和らげるように

力を尽くすこともなかった。

そうした時の父母は

全く一枚岩のように感じられた。

16歳以後彼女は何を言ってもだめだと

自己主張を諦めてしまった。

…彼女は家につなぎとめられていた。

 

…外出恐怖についての発生的な症状解釈も

その頃与えられたものである。

それは

「彼女に症状があることで

彼女が家に縛り付けられていることを

合理化でき、母への怒りを意識しないことが

できるのではないか」

という形で与えられた。

…彼女はこの解釈に対して

何の言及もせず

私自身もこの解釈のことは

ほとんど忘れていたといってもよい。

…「言っていることは分かるけど

ピンとこない」

と言葉になることもあった。

 

治療の転機

…この行き詰まりの中で

ようやく私は自分のうろたえについて

吟味してみた。

そして気づいたことは

そのうろたえが

私が彼女をいじめている感覚

によるものであることだった。

そこで私は実感した

私が彼女にそのような解釈を与え

共感を持って介入しているつもりでも

一枚岩となって彼女の家この達成感に

理不尽な支配的な圧力をかける

1枚的な父母を私は演じていたのである。

…そして

彼女になにを伝えても

わかってもらえないという

私の無力感そのものが

両親に言い訳を何も聞いてもらえずに

圧倒されてきた

無力でちっぽけな彼女の気持ちと

同じものであることも

私は理解した。

 

…私はその理解を伝え

私自身の解釈が

彼女に認めてもらえないじれったさから

ムキになっていたという失敗を認めた。

 

…うろたえの吟味と失敗を認めること

という流れは数ヶ月の間

何度か繰り返された。

そのうち

彼女の涙には

ある充足感が感じられるようになり

…やがて外出時の不安は薄らぎ

生活の範囲も広がって

彼女はアルバイトを始めて

10年ぶりに友人と一泊旅行を楽しめた。

 

岩崎学術出版 藤山直樹著「続・精神分析という営み」より

 

ケースその5 ~キャリアウーマン~

心理カウンセリングのイラスト

彼女は職業生活では大過なく

着実にキャリアを重ねていたが

男性との関係が

激しいものになりがちで

いつも嵐のような強烈なやり取りの末に

破局を迎えるのだった。

彼女はそうした自分の在り方を

変化させたいという

説痛切な希望を持って

週2回の自費設定のセラピーに入った。

 

治療の転機

…その日

彼女は仕事で数週後の1セッションを

キャンセルしなくてはならないことを

私に伝えたが

その時の私の反応が冷淡だった

というのだった。

…私がこの時何を言ったのか

今ではよく覚えていないが

おそらくやや苛立ちながら

幾分防衛的な発言をした可能性がある。

彼女は言った。

「そうやって先生が

感情を出すだろうと思っていた。

そうしたことが

あまりに予想通りで

馬鹿馬鹿しくなる。

ものすごく嫌だ。

だから私は最初から言いたくなかったのに

先生が問い詰めるから

言わないといけなくなったのだ。」

私は自分がひどく情けなくなった。

 

…そしてその時に私は患者の絶望を

そのまま体験しているのだと直感した。

私は「この治療に進歩がないように

私にも進歩がないということですね」

とつぶやいた。

彼女は沈黙した。

その沈黙の中で私の心に

「相手が彼女から引きこもる時に

彼女に生まれる貧欲さ

についてはいつも耐えられなかった

私がそれに耐えられるかを

今この人は知りたいのだ。

おそらくこのような苦しい局面を作り出して

それを確かめようとする

切実なニードがこの人にはあるのだ」

という考えが浮かんだ。

彼女は再び話し始めた。

「こうやっていつも分かりきった

筋書きで先生を感情的にして

にせものの手応えを作り出している。

でもそうでもしないと

この場はまるっきり

空しいもののような気がする」

 

…(彼女は)「偽の手応え」

のための話ししか

ここでは話していない

本当に心に思い浮かぶことなど

話していないと感じる

と言った。

というより

今黙っている時

確かに何か浮かんでいたのだが

それを自分が話したくない

という気持ちが

はっきりと感じられているのだ

というのだった。

彼女がここをもっと柔らかで

自由な場所として使いたいという

潜在的な希望を持っていること。

そこで本当に

もの思い

夢みたい

と感じていることを

私は感じ取ることができた。

…彼女と私は

セッションの終わりまでの5、6分間

静かに黙っていた。

 

岩崎学術出版 藤山直樹著「続・精神分析という営み」より

最後に

大学の教授が黒板の前に立つイラスト

 

いかがでしたでしょうか。

私自身心理療法に携わるものとして

いくつかの事例発表会で

ケース発表を耳にしてきました。

 

正直にいうと

心理カウンセリングで

今回上げたような

ドラマチックな展開が

繰り広げられるのは

ほんの一部であるように

感じます。

しかし本当にすごい先生は

目立たない形で

世の中に存在していて

カウンセリング代金以上の

体験をもたらしてくれると

私は実感しております。

 

今回の参考図書が

少しでも皆様のお役に

立てましたら幸いです。

 

 

今回参考にした図書

 

 

 

 

最後まで記事を読んでいただき

ありがとうございました。

 

thank you の文字